玉手箱を開ける
この土日、浜松まで第九を弾きに行って参りました。
なんと、30年ぶり!!
私が九州交響楽団を退団した最後の演奏会が、ちょうど30年前の12月の第九演奏会。
この巡り合わせに心が震えないわけがない!
(今日のブログは今までで最長です。久しぶりのブログなので許してね ^^♪)
実は、私のささやかな夢の一つは、
もう一度プロオーケストラの舞台で演奏すること。
でも、要介護5の娘のお世話があって、
しかも彼女は重いてんかん患者で気が抜けない毎日。
オケ仕事なんて、私の生活では無理。
そして、弾きたいと思っても、オケのエキストラはどこも定メンバー、
あるいは若い優秀な人が呼ばれる。
結婚して関東に来てからはほとんどオーケストラの仕事をしなかった私に、そんなつてはない。
これは諦めていた夢でした。
ところが、11月のある日、コンサートマスターを務めている友人からメッセージが入る。
「12月14、15浜松で第九があるんだけれど、一人ヴァイオリンが足りなくて探してます。泊まり仕事だから難しいでしょうか?」というもの。
驚きました!
そして胸が最高に高鳴った!!
でも、手を上げて喜ぶだけのドキドキではなく、
今の私にできるのだろうか?という不安を伴った複雑なドキドキ感。
その朝は練習していても落ち着かず、
彼も忙しいだろうからさっさと結論を出そうと考える。
私の中では不安よりもやりたい気持ちが勝っていることを感じ
決める。
その前に、娘のお守で留守番してもらわないといけない夫にも
承諾してもらえるかのショートメールを送るものの届かず、
でもきっと「いいよ」と言ってくれるだろうと思い、
コンマス氏に「お引き受けしたいです」の返信を送る。
その返信の中に
「実は、もう一度オケで弾くことは私のささやかな夢でね。
なんか、泣きそう、、。」ってつい書いてしまったら、
即電話までくれました!
優しい~~。(涙)
そのコンマス氏とは、大阪交響楽団と浜松フィルハーモニー交響楽団の
二つのトップに座る森下幸路氏。
大学時代の仲間という感覚なので、親しく森下くんと呼んでいるけれど、
地位も名誉も得てどんなに偉くなっても、
学生時代と全く変わらない。
いや、昔以上に優しく思いやりに満ち、そして人の面倒見が良い。
今回の2日間で話をしたメンバーの方何人からも「森下さんのお陰で」
という言葉を聞いた、本当に人望の厚い人。
音楽にはその人が現れるというけれど、
彼の音は無類の美しさで夢のような世界を届けてくれます。
森下氏のフランクの第1、第4楽章は、私もこう弾けたら!と願う理想の世界。
そんな彼に誘ってもらえて嬉しくて、森下くんのもとでの、このオーケストラでの仕事を待ちわびていました。
しかも、指揮は矢崎彦太郎先生。
私の今年の主催コンサートで解説をしてくださったご恩に対する感謝も込めて
演奏できるよう頑張りたい。
つまり、言うことなしのオケ再デビューの舞台が突然現れたのでした!
しかし、楽譜がネットで配られたのは練習の10日前。
まあその前にIMSLPでパート譜は入手してみてはいましたが、
ボウイング(弓使い)が書かれているちゃんとした楽譜をプリントできてからが、
本格的な準備練習開始。
第九はオケに居た時にもっともよく弾いた曲の一つ。
一番弾いたのはドヴォルザークの「新世界」で、
こちらは完全に暗譜してしまったのに対して、
第九は暗譜するほどは弾いてない。
けれども、弾いてみたらかなり覚えていました。
ただ30年ぶりでは、難しい個所はさすがに弾けない。
速いパッセージは要練習。
しかもそこは、本当に難しい。
第九は名曲であり難曲なのです。
~私が座った4プルト目からの眺め。大きなホールで弾けること自体も喜び♪~
そして、1曲目のブラームス「大学祝典序曲」の1stヴァイオリンは、
ピッコロと同じ音域を駆け巡る高難易度の曲。
どうしたら安全に安定して音程を取れるかを考えて、
二つのはしご(E線とA線をという意味)を行ったり来たりしながら、
尺取り虫のように上って行くフィンガリングを考案して何とかはまるようになり、
あとはその特殊な指使いを覚えられるかどうか?がポイント。
それもドキドキ。
このところ記憶力が悪くて~~。。
でも日が近づくにつれて、第九の方が気になって来る。
ゆっくり目ならなんてことなくても、
テンポを上げたら弾けなくなる難所がある。
この演奏会は、どんなテンポなのか?
一応パート譜に書かれているテンポ表示の通りにメトロノームで練習してみるけれど、
これはかなり遅め。
そして私が持っているCD コンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の1959年~1961年の古い録音は、さらに遅い。
きっともっと速い可能性の方が高いと思いつつも、
聴いているものに耳が慣れて落ち着いてしまった。
14日(土)、8:30のバスに乗って家を出発し新幹線に乗って、
浜松には11:30到着。
お昼はもちろん、鰻!
しっかり腹ごしらえ♪
浜松駅前のアクトシティのステージには12:30前には到着。
ここは2200名以上収容する大ホール。
なのにとっくにチケットは完売していると聞く!
この演奏会はアクトシティ浜松25周年記念イベントの、最後を飾る大事なコンサート。
合唱団の方々は、7月から26回もの練習を重ねてこの日に備えていらっしゃる。
皆さんの期待とエネルギーが充満している演奏会。
リハーサルは土曜日の一日のみ。
13:15~18:00がオケ練習。
19:00~21:00合唱合わせの長時間リハーサル。
私 体力持つかしら、、?も心配の種。
日頃の私は18:30までで練習は終わって、
その後は夕食の支度、娘のお風呂、その後ようやくメールの返信
と夜は楽器を触る暇はない。
いつも一日の練習時間もそんなには取れない。
リハーサルでへたばってしまわないか?もすごく気になっていました。
が、意外に元気、元気♪
以前よりも脱力できて疲れなくなっている自分を発見。
しかし、緊張しました、、、。
ホールに入る時からなんだか胃の辺りがちょっとキュッとした感じがある。
大学卒業後初めて、九響のリハーサルに行った日を鮮やかに思い出す。
ステージに入って森下君と再会のハグ。
お隣の席の薫子さんに初めましてのご挨拶の後、
薫子さんは桐朋の同窓生で同じく九州の出身、
そして昔の先生が私の九響時代のコンマス松村英夫氏だったというから、その奇遇さにも驚く。
ご縁って不思議ですね~。
そんなこともあって、彼女とは親しく楽しく一緒に音楽ができて本当に有難かった。
ウオーミングアップを経て、
いよいよまずはブラームスのリハーサル開始。
管楽器の音色と弦楽器の五度が重なり合うチューニングの音だけでも、懐かしい~♪
しかし、テンポが速かったのでした!!
キャー、準備してきたものよりもずっと!
焦りまくってむしろ走ってしまい、1回目は崩壊。。。
ああ~~~私邪魔してしまった!
ごめんなさい(>_<)
そして、ステージには188名の大合唱団とソリストが並ぶので、
オーケストラは完全にステージからセリ出ている。
つまり反響版の外にいるために、超デッド!!
うわ~ヴァイオリン群の音程が気になる~~!
いつも一緒に弾いている者同士なら音程感覚は近くとも、
どの奏者も自分の好みの音程というものがあり、
ユニゾンで弾いていても微妙に違う音程の塊が
ますます緊張を誘う。
ヴァイオリンだけでなく、全てのパートがデッドな音響で聴こえて来て、
日頃聴こえないパートが聴こえたり、
まず耳が慣れない。
オタオタしているうちに1曲目終了。
休憩の後の第九のリハーサル。
これまた速い!!
キャー!私が知っている中での最速かも?
このテンポで弾く準備はできていなかった、、、、と深く反省。。
とにかく、リハーサルの日は久しぶりのための緊張、
デッドな環境での聞こえ方に慣れないこと、
速いテンポに圧倒され、落ち込みまくりました。
この日は、「ああ私はもうオケでは通用しない、、」そんな気分。(>_<)
しかし、休憩の楽屋は和気あいあいとしており、
誰もスマホなどいじらず楽しい会話が弾む。
浜フィルは、浜松出身、在住の浜松ゆかりのプロ演奏家が登録する
年に数回の演奏会を行うNPO。
たまに仲間に会って嬉しいという温かい雰囲気がある。
基本、音楽に集う人は気持ちが良い。
そりゃ、悩みや妬みや人と比較して落胆するとかがないわけではない。
けれども、本番は作曲家が長い時間をかけて、
自分の想いと考えを音符にして組み立てた尊いものを
ただ一瞬にかけて皆で心を合わせて演奏する。
その瞬間、奏者は音楽の力で浄化されている。といつも思う。
1日しかないリハーサルはさっさと終わっってしまい、
余った時間はステージに残ってひたすら個人練習。
たまたま私の横隣り一列 1st 4名残って練習していたので、
心強い。
お隣の薫子さんとは一緒に弾いてもらって、安心感を得る。
一人で弾いては弾けても、誰かと弾くとうまくいかなくなることもある。
そこでブラームスの最後の1Pで、私はリズムを勘違いしていた個所があることを発見。
だから今さっき弾けなくなったんだ、、、とわかる。
閉館21:00ぎりぎりまで練習し、
浜フィルが取ってくれたホテルに向かう。
親切な薫子さんがホテルまで案内してくださった。
途中ファミマでちょっと豪華なスイーツを自分へのお疲れさま用に買う。
ホテルには無料のカフェがあり、買って来た和栗のモンブラン♪をカモミールティーと共に楽しむ。
加湿器も貸してもらえて、
簡単な朝食(多種類のプチパン、ゆで卵、バナナ、飲むヨーグルト、野菜ジュース、牛乳、ホットドリンク等)もついて、
なんと宿泊代¥2000らしい!
有り得ない安さ!
浜松ってどうなってるの?
23時には眠りについて、いつものように5:38には目が覚める。
私は夜が苦手で、朝はなぜか早く目が覚める。
さっさと練習開始したいところだけれど、
他の宿泊客の睡眠の邪魔になっては、、、と
とりあえずまだベッドでごろごろ。
今日は朝ごはんも作らなくていいんだものね。
そういうことで、頭の中で練習。
気になる個所はミニチュアスコアを確認。
音楽と自分のことだけ考えていていい贅沢な二日間。
朝食後、小さな音でウオーミングアップだけ済ませて、チェックアウト。
~泊まったホテル~
9時過ぎにはホールに到着。
金管打楽器の人はいるけれど、
弦楽器一番乗りでステージで練習開始。
ヴァイオリンの人って遠慮するのか恥ずかしいのか、
舞台袖の暗い所で練習する方も多い。
でも私はもう老眼で見えない!
それに昔からステージに一人残って練習するのは慣れているから、
誰かに聴かれるとか全く気にならない。
とにかく、せっかく森下くんに誘ってもらったのだから、
しっかり仕事して帰らなきゃ!の一心。
そう。まずは迷惑をかけずに弾く。
その先に貢献できる演奏をする。
私の夢なんて個人的なことはそのまた次。
GPは落ち着き目のテンポで安心して弾けて、
これも早く終わったので、また最後の練習。
結局13時ぎりぎりまでステージに居ました。
バタバタとコンビニでお昼ご飯を買って食べて、
14時 いざ本番!
舞台袖で弾いてみて、ブラームスの要所は暗譜している自分を確認。
よし大丈夫。
この不安な世の中、だからこそ会場のお客様の幸せを祈って演奏したい!と願う。
本番はオケも自分も一番良い出来だったと思う。
さすがプロの本番の集中力。
音も良かったし、乱れも最小限。
会場の響きに慣れ、弦楽器の音程もバスに乗せて揃った。
短いリハーサルで頑張った私たち。
矢崎先生のご指導のもと、森下氏中心に心をあわせ、
超満員のお客様に「喜びの歌」を届けられたのではないかと思います。
矢崎先生の、始終音楽への愛と喜びに満ちた表情と明確なサインはとても楽しく、
先生の元で演奏させていただけて幸せでした。
ブラームスは1stヴァイオリンにとって難曲ながらもエネルギーの高い楽しい曲で、
1週間後にもう1度弾きたい、そうしたら完璧に!などと思ってしまう。
最後の方で1か所外してしまって悔しい。。
ベートーヴェンの第九、
第1楽章の始まりの2ndの刻みは、
宇宙の始まりは命の始まりは一つの素粒子の振動からであった、、、と
ベートーヴェンが語っているように思え、
1stの引っ掛けるリズムの小さなモチーフの二つの音は、小さな星々のように輝き、
フルオーケストラのFになった時に
大きなメッセージが語られることを思いながら弾いていました。
ベートーヴェンって本当に偉大な人!
あの日は、第1、第2楽章のどちらも、
宇宙の彼方の出来事にいる感じがした。
これから大いなる世界からのメッセージが告げられるのだと。
第3楽章は、ベートーヴェンが歩いた森の世界。
人の世界。
愛する地球、緑の美しい地球に私たちはに足を下ろす。
散歩が好きで日課にして森を歩き回ったベートーヴェンは、
自然の中からたくさんのインスピレーションを得たと言う。
旋律ではない合いの手の短いモチーフを弾いている時、
ああここは風のそよぎのようだ、頬を撫でる優しい風の、と思ったり。
ホルンのソロも美しかった。
心から奏でる森下氏の後姿に音楽への限りない愛を感じ、
しみじみ誘ってくれてありがとう、、、と思った。
第4楽章。
チェロとバスの静かに始まるテーマは、Pなのに縮こまることなく、
本当に小さなささやくような音なのにとても密度が高く、
心の中にある本当の歌が生まれていくように感じた。
1stで主題を受け継ぐ個所、
美しい空気が流れてくる中、女性の声で静かに爽やかに
沁みとおるように歌うのだと思って弾いていた。
まだ人々は気が付いていないけれど、
暁の空が白々としてきて、喜びの歌は静かにあまねくこの世に浸透していく。
私はオーケストラでこのテーマが次々と語られていく場面がしみじみと好き。
その後は力強く、ベートーヴェンの人類愛のメッセージの中に居ることができたといういうのが、
私が本番を弾きながら自分の中で感じていたこと。
心の中にあった感覚や浮かんだイメージ等を言葉に変換するとこうなる。
~アクトシティロビーのクリスマスツリー~
1日目、自分に落胆したリハーサル。
でもその後、周りの方たちと自主的に残って練習した
無言の責任感、連帯感にもお互いに温かく支えあい、
本番はやるだけのことはやったの思いで帰途に就くことができた。
近くの若い方から
「森さんの呼吸とても自然だった。頼りにしてました!」
と言っていただけ、
何人もの方から「またぜひ来てください!」との言葉に ホッ。(^^♪
浜フィル、温かいオケです♪
~帰りの浜松駅での今流行りのストリートピアノで、一人自分を慰めるようにピアノを弾くサラリーマン。
音楽はみんなのもの~
あまりに久しぶりに開けた玉手箱からは、
一瞬老化した自分(いや、青い私?)にも出会ったけれど、
時間を経るにつれて感覚が戻り、何とか本番に間に合った。
この場所では何が聞えてくるのか?
その先に、
今何を聴かなければならないのか?
指揮者の意図と意思は?
コンサートマスターの感覚と考えは?
他のパートは何を語る?
それ察知し、その上でそこに自分の音を乗せるという
オーケストラで弾くことの基本と面白さを改めて体験。
瞬時に判断してアンサンブルするスリルと興奮に
脳はフル回転で反応。
オケで弾いているとボケることはない。(笑)
オーケストラはとてつもなく面白い!
いつも弾いている方にとってはごく当たり前のことなのでしょうが、
こうして浦島太郎のように竜宮城から帰って来て、
もう一度乗ってみる者に見える景色は
とてつもなく尊く美しかった。
私はやっぱり、オーケストラが大好き!
そして、20代の頃に九響に在籍していたことが、
自分の音楽の礎になっていることを改めて感じた。
特に、今は亡きコンマス松村さんの呼吸や弓使いをいつも見て吸収しようとした努めたこと。
いつもニコニコされていた美しい音の松村さんの後姿から学んだことは、
私の中に未だ生きていることも、
時を超えて教えてもらい、
感謝が込み上げてきた。
音楽は演奏する人の心が届けるもの。
帰りの新幹線の中で交わした森下氏からのメッセージ
「変わらぬ友情に感謝」は、こちらの気持ちです。
彼からは、大変な娘を抱えている私を思いやってくれる数々の優しいまなざしをいただき、
私も多忙を極める彼の健康をいつも祈る。
いつか、守谷にその温かい素晴らしい音を、
あなたの音楽と人柄との本当の実力で巡り合ったストラディバリウスで奏でに来てね!
本当にありがとう!!
« クリスマスを飾る♪ | トップページ | 今年納め »
コメント
« クリスマスを飾る♪ | トップページ | 今年納め »
読んでいて、森さんの高揚した気持ち、感動、色々なものが迫ってきました。。
久々のオケでの時間、本当に良かったですね‼️
私も感激しました😊
投稿: Kuni Soma | 2019年12月18日 (水) 23時18分
素晴らしいブログですね。
森さんはやはり、音楽家なんですね。
細胞の隅々まて喜んで演奏しているみたい。リハも前日のデザートも情景が目にうかび、とても楽しく読ませて頂きました。
必ず、森さんのオーケストラ演奏聞きにいきます!
投稿: おおわくゆうこ | 2019年12月20日 (金) 23時06分