もっと笑顔を
「世界にはもっと笑顔が必要だ」
ルノワールがこういう信念に貫かれた画家だと知ったのは、もう10数年前のこと。
千住博さんの「ルノワールは無邪気に微笑む」 朝日新書 を読んだからでした。
実はそれまでの私は、「ルノワールなんて、どれも微笑んでいる甘っちょろい絵」
なんて失礼なことを思っていました。
けれども、千住さんの著書で、
晩年のルノワールはリウマチで激しく痛む手に絵筆をくくりつけ
「最善を尽くしきるまでは死ぬわけにいかない」と言って、
痛みをこらえて制作に励んでいたことを知り、
その作品を観る目が180度変わりました。
知らないとはこわいこと。
けれども知ることによって、一気に目が開かれて、
奥行きのある景色が拡がります。
知っているつもりだったその人の、別の魅力を新たに発見するのは、
大げさに言うと人間全体に対する大きな眺望と深みを垣間見るようなハッとする感覚。
まとまってルノワールを観る機会は今までなかったので、
今回のルノワール展を楽しみにしていました。
美術展のお供はいつも、楽しいコントラバス女史。
音楽の好みも似ている彼女と、
美術展で美しいものを一緒に鑑賞は、ますます楽しい♪
初めて日本にやってきた「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」の
木漏れ日の中の群集。
誰もが幸せそうな光景に、ルノワールの分け隔てない祈りを感じます。
「ピアノを弾く少女たち」は、私にとって懐かしさがこみ上げる絵。
子ども時代の私と妹の部屋には、ルノワールの「読書をする女」とこれが飾ってあったように思います。
今回一番印象に残ったのは、「都会のダンス」「田舎のダンス」の
二つの縦長の響作の「田舎のダンス」の方。
飛び切りの笑顔をこちら向ける女性は、
のちにルノワールの妻となるアリーヌ・シャリゴですが、
ルノワールは彼女のことを理想の女性だと思っていたそう。
周りを爽やかな幸せで包むことのできる素敵な女性だったそうです。
これを観るだけで、納得!です。
六本木の国立新美術館を出ると、外にはまぶしい真夏の青空が広がっていました。
暑くとも爽やかに感じたのはルノワールの祝福のお蔭ですね。
いろんなタイプの芸術があるけれど、私は人を幸せにする芸術に一番魅かれます。
聴いてくださる方に一時の爽やかな風を音楽で送れるように、
そしてホールが幸せで満たされ、それを日常生活にお持ちかえりいただけるように
と願って弾いていきたい、と改めて思いました。
「ルノワール展」 オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵
2016年 ~8月22日(月) 国立新美術館
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